研究概要 |
2009年8月に箱根火山で発生した群発地震について,群発地震発生域周辺に展開した臨時地震観測点で収録された地震波形を用いて,S波スプリッティング(異方性領域内でS波が2つに分裂する現象)解析を行った. 2009年8月の群発地震では,走向の異なる明瞭な2枚の面に沿って震源が分布している.これらの面(震源域)上に設置した観測点では,それぞれ群発地震の断層面の走向に一致する方向(それぞれN101EおよびN140E方向)に選択的に配向したクラック群が推定された.その他の観測点では,この方向とは異なり,水平最大圧縮応力の方向に選択的に配向したクラック群が推定された.また,2つのS波の到達時間差から推定されるクラック密度を示すパラメタについては,震源域直上では周辺に比べて相対的に値が大きく,異方性の度合いに換算すると5~10%程度になることが明らかになった.深さによる2つのS波の到達時間差をもとにすると,上記のようなクラック群の存在する構造は,2枚の面のうち北側では深さ2.5kmまで,南側では深さ1.5km付近まで続いていることも明らかになった.このことは,群発地震の震源がそれぞれ深さ2.5km,1.5kmまで分布していることとも整合的である. 以上の結果から,群発地震の断層面の走向と同じ向きに配向しているクラックが相対的に高い密度で分布している構造が2009年8月の群発地震の震源域に存在し,この構造に支配されて群発地震が発生した可能性が示唆される.
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