研究概要 |
2001年および2009年に箱根火山で発生した群発地震の発生時期を含む期間について,群発地震発生域周辺に設置された温泉地学研究所の定常観測点で収録された地震波形を用いて,S波スプリッティング(異方性領域内でS波が2つに分裂する現象)解析を行った.1995年~2011年に発生したM0以上の地震を解析対象とした.解析結果のうち,分裂したS波の到達時間差(DT)の信頼区間95%の範囲について'その区間が卓越周期の4分の1以下,かつOms以下の範囲を含まない解析結果のみを信頼性がおけるものとして採用した.結果として採用した地震数は153個であった.解析した地震を1)群発地震,2)1)以外で深さ5km以浅の地震,3)深さ5km以深の地震の3グループに分けた,解析の結果,1)の地震群のみが他とは異なり,速いS波の振動方向が約15度時計回りに回転しており,DTも約30ms大きかった.また,2)の地震群については,群発地震の発生前後にDTが1)の地震群と同程度の大きな値となる傾向が見られた.よって,群発地震の発生期間のみ異方性の度合いが高くなるという時間変化が検出された.これは,群発地震発生前後には,地殻内流体が既存のクラック群に選択的に入り,クラック密度が高くなったためであると解釈できる. 群発地震の震源域周辺に設置した臨時地震観測点で収録された地震波形を用いて,散乱減衰異方性の解析を行った.解析の結果,2009年の群発地震の発生期間中は約N140Eの方向の減衰が小さいことが分かった.これは,この方向に選択配向したクラック群が卓越していることを示しており'S波偏向異方性解析の結果とも一致する.群発地震発生後には約N70Eの方向の減衰が小さいことが分かった.この方向に合致する特別な構造は周辺に存在しないが,群発地震の発生中とその後の期間とで減衰異方性の時間変化が検出された.
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