研究概要 |
今年度は,3つの課題,(1)地震断層におけるコサイスミック化学反応の痕跡の検出,(2)断層滑り時間と価額反応速度の兼ね合いの検討,(3)各化学反応における吸熱量の評価を設定した.(1)について,南海トラフの高角逆断層,房総半島の新第三系の付加地質体に発達する断層,および四国の白亜系の付加地質体に発達する断層において,主要元素,微量元素,およびストロンチウム同位体の分析を実施した.その結果,南海トラフでの断層では,摩擦発熱の履歴を示す痕跡が認められなかったが,後者の2箇所の断層では,顕著な痕跡を発見した.南海トラスでの成果については,国際学術誌Tectonophysics上で報告した. 次に,(2)と(3)について,海溝型地震断層のセッティングにおける主要構成鉱物であるイライトに着目し,熱分析装置を用いて,その速度論パラメータの決定,比熱容量と熱拡散係数の測定,および吸熱量の測定を実施した.さらに,これらのパラメータ,実測値を用いて,地震時の断層滑りを模擬した数値解析を実施した.その結果,イライトからOHが脱水することによって,断層内の間隙水圧が上昇し,剪断応力の劇的な低下が起きうることが明らかになった.さらに,この脱水反応は吸熱を伴うため,地震時に断層から放出されるエネルギーの多くを消費し,それによって,断層での温度上昇が抑制されることが明らかになった.これらの成果は,海溝型地震において,断層にてどのような物理化学的な素過程が生じているのかを理解する上で,極めて重要である.
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