昨年度開発した多結晶体の弾性を計算するツールを用いて、上部及び下部マントルの地震波走時解析で得られた上部マントルの異方的なS波速度構造のモデリングを行った。しかし、観測波形における震源側の上部マントルの異方性についての補正及び、地震波走時解析のみで得られた速度構造の信頼性に問題があった。そこで、それぞれの震源の最近接の観測点についてSKS波を用いた解析を適用し、震源側の上部マントル異方性についての問題を解決した。この補正による最下部マントルの異方性への影響は0.3s~1.0sであったが、全体として観測されていたV_<SV><V_<SH>型異方性の分布に顕著な差は見られなかった。次に、信頼性の問題をクリアするために、新たに地震波形そのものを用いた波形モデリング解析を行った。波形モデリングの利点は、波の立ち上がりだけを用いる走時解析と違って、振幅や形を用いるために情報量が多く、より詳細な構造を決定することができる。理論波形計算に時間がかかるが、波形計算コードのチューニング及び計算機環境を整備することで解析を可能にした。その結果、最下部マントルの異方性は深ざ2400kmから現れ、D"不連続面の上では最大0.5%のV_<SV><V_<SH>異方性があることが分かった。またD"層内では、最大2.5%の異方性があり、核-マントル境界にいくにつれて減少するモデルが得られた。 CMB付近で異方的でなくなっていくのは、上部のようにせん断応力によってLPOが発達するという単純なモデルでは説明できない可能性を示唆している。
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