研究概要 |
人工衛星に搭載されるマイクロ波放射計AMSR-E(空間分解能は約6km)による輝度温度データから、時間や天候に左右されずに薄氷厚の推定をできるアルゴリズムの開発を北極海で行った。また、これまで精度に問題があった氷縁域や、厚い雲が存在する場合のアルゴリズムの改良を行った。高解像度(空間分解能は数十m)のSARデータとの比較から、アルゴリズムの改良が上手く行っていることが示された。これで北極海、オホーツク海、南極海のAMSR-E薄氷厚アルゴリズムが完成したことになる。南極海と北極海におけるAMSR-E薄氷厚アルゴリズムは比較的良く似ていたが、オホーツク海のものは少し異なっていた。AMSR-Eは、従来用いられていたマイクロ波放射計SSM/Iよりも空間解像度が面積で4倍良いので海氷生産量の大きい岸近くをよりよく解像でき、より詳細に沿岸ポリニヤ域をモニタリングすることができるようになった。AMSR-Eによる薄氷厚,海氷密接度,海氷漂流速度データを用いて、主に熱収支解析から、オホーツク海で熱塩フラックスデータセット(何時何処でどれだけ大気-海洋間に熱のやりとりがあり、それに伴う海氷生成(塩分排出)量ならびに融解(淡水供給)量を示すデータセット)の作成を行った。このデータセットから、これまでよく分かっていなかった海氷過程(結氷・移流・融解)による熱と塩の再分配と輸送が示された。このデータセットは、モデルのforcingや比較・検証データとしても用いることができる。また、春季に海氷融解量が大きい海域と、人工衛星(MODIS)により観測された植物プランクトンのブルーミングが生じる海域が一致することが示され、このデータセットが、気候システムの理解のためだけでなく、生物活動や物質循環に関する研究にも利用可能なことが示された。
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