本研究では、大気海洋結合大循環モデルによるシミュレーションを通して、フィリピン・ボルネオ島を反時計回りに回る南シナ海通過流の大気海洋結合系での役割を明らかにする。今年度は、まず、東京大学大学院理学系研究科において、研究代表者が中心になって開発を進めてきた大気海洋結合モデル(UTCM)を用いて、100年間のコントロール実験を行った。南シナ海通過流の大気海洋結合系での役割を明らかにするするためには、南シナ海通過流だけでなく、インドネシア通過流の主要な経路であるマカッサル海峡における流速プロファイルの平均場と季節変動を忠実に再現する必要があるので、既存の観測データとの比較を行った。その結果、南シナ海通過流(北半球の冬に強化、夏に弱化)とマカッサル海峡における流速プロファイル(冬は表層で北向き、亜表層で南向きの流れ、夏は全層で南向きの流れ)の季節変動が再現されていることが確認された。そこで、南シナ海のルソン海峡以外の海峡を閉じた感度実験を開始し、100年間の積分を終えた。来年度は、コントロール実験と感度実験の比較から、南シナ海通過流の大気海洋結合系での役割を詳細に調べる。また、モデル依存性を議論するため、CMIP3(第3次結合モデル相互比較プロジェクト)に登録されている約20個の大気海洋結合モデルの内、海洋モデルの解像度が高く、インドネシア多島海や南シナ海の地形がよく表現できている5個のモデルでの南シナ海通過流の再現性を調べた。その結果、どのモデルでもマカッサル海峡における流速プロファイルの季節変動までを忠実に再現できていないことが明らかになった。したがって、マカッサル海峡における流速プロファイルの季節変動をUTCMによって再現できたことは、画期的であると言える。
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