本研究では、大気海洋結合大循環モデルによるシミュレーションを通して、フィリピン・ボルネオ島を反時計回りに回る南シナ海通過流の大気海洋結合系での役割を明らかにする。まず、大気海洋結合モデル(UTCM)で、南シナ海通過流が通過する海峡を開いたコントロール実験(CTRL)と南シナ海のルソン海峡以外の海峡を閉じた感度実験(NOSCST)を行った。昨年度は、100年分積分していたが、今年度、この計算の続きを行い、180年分の積分を終わらせた。両実験の結果を比較したところ、CTRLでは、観測と同様、マカッサル海峡の南向き流の極大が亜表層(深さ約150m付近)に現れたのに対し、NOSCSTでは、表層に極大が現れた。また、CTRLでは、マカッサル海峡通過流の体積・熱輸送量が、観測と同様の季節変動をする(北半球の夏季に大きく、冬季に小さい)のに対し、NOSCSTでは、冬季の輸送量が増大し、観測とは異なる季節変動を示していた。次に、気候への影響を調べるために両実験で再現された海面水温の差を計算した。その結果、NOSCSTでは、南シナ海や黒潮続流域で水温が高くなるのに対し、東・西太平洋赤道域や日本南方の海域で水温が低くなるなど、影響は、広範囲に広がっていた。特に、南シナ海南部の高温化は、南シナ海とインド洋赤道域東部の降水の増加を通して、太平洋とインド洋のウォーカー循環に影響を与えていた。したがって、南シナ海通過流は、これまで考えられてきたよりも、全球の気候変動において、重要な役割を果たしていることが示唆された。
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