本研究では、semi-prognostic法を用いて深層海洋大循環の数値シミュレーションを行い、現実的な鉛直乱流拡散のもとで、観測された水温・塩分の分布を再現する深層海洋大循環がどのようなものであるかを明らかにすることを最終目的としている。平成22年度は、前年度にsemi-prognosticスキームを組み込んだRIAMOM(RIAM Ocean Model)を用いて、深層海洋大循環の数値シミュレーションに着手した。鉛直乱流拡散の影響に注目するため、中規模渦による水平拡散の影響が大きい南極周極流域をモデル領域から除き、海表面での水温・塩分フラックスのみでモデルを駆動した。まずsemi-prognostic法を適用せずに、鉛直乱流拡散係数の値を、観測された水温・塩分の分布を維持するために必要と考えられている1×10^4(m^2s^<-1>)から、乱流微細構造の観測結果から示されている0.1×10^4(m^2s^<-1>)まで段階的に小さくして、各係数についてそれぞれ定常状態まで数値積分を行った。その結果、過去のスケーリング測から示唆されたように、子午面循環の流量、密度躍層の深さが、それぞれ鉛直乱流拡散係数の2/3乗、1/3乗に従って減少してしまうことが明らかとなった。次に、鉛直乱流拡散係数0.1×10^4(m^2s^<-1>)のもとでsemi-prognostic法を適用して、鉛直乱流拡散係数1×10^4(m^2s^<-1>)で達成された水温・塩分の分布を再現する深層海洋大循環がどのようなものであるかを調べた。 水温・塩分の分布、子午面循環の流量ともに、semi-prognostic法の適用強度に大きく依存し、適用強度を様々に変えた感度実験を行う必要性が明らかとなった。
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