1. データ同化実験に先立って、黒潮等による海洋フロント構造をより良く再現するための新たなデータ同化スキームを開発した。異なる水塊が近接する海洋フロント域では、誤差が非ガウス的な振舞いをするため、ガウス分布の誤差を仮定した多くの同化手法では、フロント構造や水塊特性の再現性を悪化させることが分かった。そこで、誤差の非ガウス性を考慮した拘束条件を用いた3次元変分法を開発し、そのインパクト実験を行った。その結果、非ガウス性を考慮することにより、フロント域における海洋構造の再現性が向上した。また、本スキームを用いて、1993年から2007年の期間における同化再解析実験及び2004年大蛇行期間における予報実験を行い、概ね良好な再現性を有していることを確認した。 2. 上記同化予報実験結果を用いて2004年黒潮大蛇行の消滅機構を調べた。伊豆海嶺上の黒潮流軸に着目すると、2005年1月と2005年6月頃に流軸位置が変化していた。その流軸変化は、黒潮上を伝播してきた小規模な擾乱によりもたらされていた。さらに、2005年1月の変化以降、大蛇行内側域の冷水渦が弱化していたことが分かり、この事がその後の大蛇行消滅のトリガーとなったと考えられる。また、これと同期するように日本南岸の水位が低下していることが潮位計データから明らかになった。この潮位低下は、伊豆海嶺上の流路遷移の結果、黒潮内側域の冷水渦が海嶺上に移動することにより励起された沿岸補足波によりもたらされ、この沿岸補足波が冷水渦の弱化およびその後の蛇行の消滅に寄与した可能性が示唆された。本研究成果は、大蛇行流路の安定性において、流路と伊豆海嶺の位置関係の重要性を示唆するものであり、今後、感度実験等を通じて詳細に調べていく予定である。
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