昨年度までに実施した感度実験から、黒潮大蛇行は、黒潮流量が低流量時ほど長期間維持されやすく、大蛇行の安定性は、黒潮流量に強く依存することが明らかとなった。今年度は、この関係を現実の黒潮の変動と対応させるために、大気再解析データの風応力場を用いて、線形渦度モデルから、黒潮域におけるスベルドラップ流量の時系列を作成した。この流量と現実の大蛇行を対応させると、やはり流量が少ない時期ほど、大蛇行が長期間維持されていることが分かった。また、過去の多くの大蛇行事例において、大蛇行期間の後半に流量の増大が見られ、このことが大蛇行の解消に寄与したと推察される。しかしながら、過去の大蛇行事例は、必ずしも低流量期に発生しているわけではなく、大蛇行の発生条件には、流量以外の要因も考慮する必要が分かった。 そこで、大蛇行の発生条件として、黒潮流量に加えて、黒潮続流の状態および黒潮上流域(台湾沖の渦活動)の状態の3つの要素を考慮して、過去の大蛇行の履歴の説明を試みた。このうち、黒潮流量の特に短周期(経年変動)成分および台湾沖の渦活動は、大蛇行に先立って発生する九州沖小蛇行の発生のしやすさを決める。また、黒潮続流流路の状態(安定・不安定)と伊豆海嶺上の黒潮流路の南北位置に密接な関係があり、続流流路が安定して、伊豆海嶺上の流路が北側に固定されていることが、大蛇行の発生条件の1つと見なせることが分かった。 上記3つの要素を用いて、大蛇行の発生ポテンシャルの指標となる「大蛇行インデックス」を定義し、海洋再解析データから、長期時系列を作成したところ、過去の大蛇行の履歴と良く対応することが分かった。
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