本研究の目的は、爆弾低気圧の予測可能性について、海洋研究開発機構地球シミュレータセンターで開発・作成されたアンサンブル再解析データALERAと大気大循環モデルAFESを用いて明らかにすることである。本年度は昨年度抽出・解析を行った2005年11月から2007年1月までに日本海上で発達した爆弾低気圧17事例と太平洋上で発達した23事例に対して、渦度移流、温度移流、非断熱加熱、断熱加熱の各項から成る力学的診断方程式を用いた発達要因診断を適用し、急発達時の発達要因と予測可能性の関係について解析を行った。具体的には、急発達時の低気圧中心に関して方程式各項の観測を同化した値(解析値)とモデルの予測値との差(インクリメント)、およびアンサンブルメンバーの分散(スプリット)のコンポジットを作成し、低気圧内での空間分布について解析した。その結果、日本海上で発達した爆弾低気圧では上空の渦度移流を弱めるインクリメントが大きかった。これはモデルが上層の渦度移流を過大評価する傾向を示しており、予測した低気圧が観測よりも北側に位置し、上空のトラフが深すぎるという昨年度得られていた結果と整合的であった。一方、太平洋上で発達した爆弾低気圧では、上層の渦度移流に目立ったインクリメントは見られなかった。しかし、降水形成に伴う潜熱加熱のスプレッドが低気圧中心付近で大きかった。これまでの研究で、太平洋上で発達する爆弾低気圧は中心付近での潜熱加熱が重要な発達要因であることが指摘されており、潜熱加熱つまり雲・降水過程の予測の不確定性が大きいことが、結果として低気圧発達予測の過少評価につながっていることが示された。
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