本研究の目的は、爆弾低気圧の予測可能性について、海洋研究開発機構地球シミュレータセンターで開発、作成されたアンサンブル再解析データALERAと大気大循環モデルAFESを用いて明らかにすることである。本年度は昨年度、爆弾低気圧に対して適用した、渦度移流、温度移流、非断熱加熱、断熱加熱の各項から成る力学的診断方程式を用いた発達要因診断を通常の低気圧にも適用し、爆弾低気圧との違いを解析した。この解析から、日本海型、太平洋型それぞれの爆弾低気圧が持つ予測誤差の特徴的な分布は通常の低気圧でも同様に現れることがわかった。一方で、予測誤差の大きさは爆弾低気圧に比べて大幅に小さく、低気圧発達率と予測誤差には比例関係があることがわかった。また、アンサンブルスプレッドに関して各項を実際の渦度発達率のアンサンブルスプレッドの時間標準偏差で規格化し、各項の相対的な不確定性を解析した。この解析により、日本海型、太平洋型ともに渦度移流の不確定性は他の項に比べて非常に小さく、日本海型では低気圧南西方向の温度移流、太平洋型では低気圧中心および南象限での非断熱加熱の不確定性が相対的に大きいことを明らかにした。これらの結果は、低気圧の発達環境によって、予測可能性を左右するメカニズムが異なり、より急激な発達をする低気圧ほど予測誤差も大きくなることを示しており、今後の爆弾低気圧の予測精度向上に必要なモデルおよび観測の改良に必要な指標となると考えられる。さらに、ALERAを作成したデータ同化システムALEDASを用いて、2009年1月、2月に実施された集中観測winter T-PARCプロジェクトで北太平洋上の低気圧近傍に投下されたドロップゾンデ観測を除去してデータ同化を行う観測システム実験を行い、この観測が低気圧の予測精度にもたらす影響評価を可能とするデータベースを作成した。
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