研究の主眼は、氷床変動に対して、氷床力学、棚氷力学、および両者の境界での力学が果たす役割の定量的評価である。本年度は流動方向のみを考慮した一次元の棚氷モデルの開発に着手した。開発は標準的な氷流モデルの枠組みを元に境界条件を棚氷のそれに変更することで行った。モデルはまだ多くの理想的な棚氷形状に対して安定に計算できるとはいえない段階である。計算の効率化など課題は残されているので次年度以降に継続して開発する必要がある。 関連して、南極氷床の着床する領域(すなわち逆にいえば棚氷の領域)の変動に対する南極氷床の応答を棚氷モデル導入前の氷床モデルで考察し、その結果を投稿論文とし、受理された。南極の氷期間氷期サイクルにおける変動の大部分が、気候変動に伴う降雪の変化よりも、着床領域の変動に起因することを定量的にしめした。従来のさまざまな手法を用いた研究による南極氷床の過去の変動と比較した。 また、南極の主な棚氷領域の変動に着目し、それらの効果をモデル上で分割して、それぞれの相対的な氷床変動への影響を考察する感度実験を行った。各棚氷領域一つ一つの着床に応答した最大限の氷床変動を求めた。その結果、いくつかの研究で議論されている、MWP-1aと呼ばれる過去の急激な海水準を南極氷床変動のみで説明するには単一の棚氷領域の変動だけでは説明が困難であることが判明した。より詳細に棚氷領域の変動を再現するには次年度以降開発を継続する棚氷モデルを用いる必要がある。
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