研究の主眼は、氷床変動に対して、氷床力学、棚氷力学、および両者の境界での力学が果たす役割の定量的評価である。本年は、昨年から考察を開始した、棚氷の水平方向の境界条件の数値モデル内での表現方法の議論を継続し、水平二次元方向への棚氷モデルの拡張をふまえて、一次元棚氷モデルと統一的に表現できる境界条件を考察した。その結果、境界条件の実装に関して有効な方策を得るに至った。考察した定式を棚氷モデルの一部に適用した。次年度は棚氷モデルの実装を完成させ、解析解が求められる理想的な条件下での感度実験を行い、数値モデルの計算安定性や収束性について調べる予定である。 棚氷モデル開発に関連して、氷床モデルに内在する、モデル内の行列計算などの数値的な表現とその結果への影響を議論し、論文に投稿、受理された。論文では、解析的には問題はないが計算機の有限性に由来する非常に小さい数値モデル構築方法の不備が、時には数値実験全体に影響を及ぼし、その数値実験で着目している観点自体に大きな影響を与えることを示した。議論した内容は氷床モデル、棚氷モデルを問わず、普遍的な問題であり、今後の棚氷モデルの開発、実装においても避けて通ることが出来ない重要な課題である。そのため、本年度は上記で適用した実装方法をこの論文の結果に基づき改めて設計しなおした。その数値的な問題を回避しながら棚氷モデル構築を出来る有効な方法を得るに至り、来年度の再実装の準備が出来た。ただし、計算速度には若干の影響が予想され、より負荷の軽い実装を考える必要があることが分かった。
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