本研究では、極域電離圏イオンの流出過程に、電子がどのような役割を担っているかを観測的に明らかにすることを目的としている。特に、イオン流出が頻繁に起きているカスプ領域における電離圏電子に焦点を当て、熱的エネルギーレベルの大多数の電子及び、降下電子の電離によって生成された二次電子の振る舞いを、欧州非干渉散乱(EISCAT)スバールバルレーダー(ESR)を用いて明らかにする。そのために必要とされる、プラズマラインを精度良く導出するための手法開発を、国際極年(IPY)の2007-2008年に実施されたESR1年間連続観測データを用いて実施した。その結果、このプラズマラインの同定には、(1)複数の積分時間データの組み合わせ及び(2)カルマンフィルターを用いる方法が有効であることを見いだした。また、本研究用に開発したレーダースキャンモードを用いたESR特別実験を2010年12月に実施した。あいにく静穏な電離圏状態における観測ではあったけれども、得られたデータを用いて解析手法の開発を進めている。さらに、IPY期間に得られたESR1年間連続観測データを用いて、イオン上昇流とイオン音波擾乱の関係について解析を行った結果、(1)イオン上昇流は08及び13磁気地方時(MLT)に発生頻度が高いのに対し、イオン音波擾乱は09 MLT付近の午前側のみ発生頻度が高いこと、(2)カスプ領域付近で発生するイオン音波擾乱の約10%は、低高度(100-150km付近)の擾乱を伴っていること、等を発見した。これらの研究成果を論文にまとめ、学術雑誌(JGR誌)に出版した。
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