磁気圏境界層における渦乱流は、それがもたらすプラズマ輸送(異常輸送の一例)や構造形成を通して、境界層という限られた領域だけではなく、磁気圏の大規模構造にも影響を与えていると考えられる。本年度はクラスター衛星、そしてテミス衛星が境界層渦を多点観測した事例を、ウェーブレット解析や二次元プラズマ構造再現法などを用いて詳細に解析し、次のような知見を得た。1、境界層でケルビン・ヘルムホルツ不安定によって生成された渦は、さらに非線形発展した結果、合体・分裂した状態にまでいたる。合体した大きな渦はプラズマの大規模輸送において、一方、分裂した小さな渦はミクロな物理過程を伴うプラズマ中の粒子混合において、重要な役割を演じている可能性がある。2、発達した渦のへりの部分で、陽子の慣性長オーダーの薄い電流層が形成される。薄い電流層は磁気リコネクションを含むミクロな物理過程が発生しやすい領域であり、異常輸送への鍵となる。3、薄い電量層で磁気リコネクションが実際に発生しており、その結果として電子の加速や磁気フラックスロープの形成が起きている。加速電子は電離圏における渦状オーロラの形成に寄与している可能性があり、一方、磁気フラックスロープは太陽風と磁気圏をつなぐ管となって太陽風プラズマの磁気圏流入に寄与している可能性がある。4、観測事例において最も目立つ渦の波長は、ケルビン・ヘルムホルツ不安定の線形理論から予測される最大成長モードの波長よりもかなり長い。このような長い波長は不安定の励起のされ方を反映していると考えられる。
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