研究課題
磁気圏境界層における渦乱流は、それに起因するプラズマ輸送(プラズマにおける異常輸送の一例)や構造形成を介して、境界層という限定された領域だけでなく、磁気圏の熱力学的状態や大規模構造にも影響を及ぼしていると考えられる。理論的な観点からは、渦乱流は磁気圏の朝側と夕方側で異なる成長の様相を示す可能性がある。しかし、磁気圏の朝側と夕方側の境界層を同時観測できる事例はほとんどないため、予測される朝夕非対称が現実に起こりうるのかどうか、不明であった。本年度は、クラスター衛星が朝側で、ジオテイル衛星が夕方側で、境界層を同時観測した事例を詳細解析し、以下の結果を得た。(1)ケルビン・ヘルムホルツ不安定に伴う渦乱流は、朝夕両わき腹で非線形段階まで成長する。(2)グラッド・シャフラノフ法やその他のデータ解析手法によって推定された渦の波長や幅は、朝側と夕方側でほぼ等しく、渦の大規模構造に顕著な朝夕非対称性はない。(3)渦中およびその近傍で観測されたイオンの熱力学的状態には、顕著な朝夕非対称性が存在する。前者二つの結果は、大規模渦の成長率は両わき腹でほぼ等しいこと、また、渦生成の種擾乱の起源は両わき腹で共通していることを示唆しており、興味深いものである。また後者の結果は、渦中あるいはその近傍で起きているイオンの加熱過程に、朝夕非対称性があることを意味している。イオン加熱は、イオンの旋回半径スケールで起きるミクロな物理機構を必要とする。したがって本成果は、渦のマクロな構造発展には朝夕非対称がないが、ミクロな物理過程には朝夕非対称があることを示唆する意義深いものであるといえる。
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