本年度の研究成果は、(1)非線形段階まで成長した(巻き上がった)ケルビン・ヘルムホルツ(KH)渦を、衛星その場観測データから同定する手法を確立したこと、および(2)地球磁気圏の昼側におけるKH渦の検出確率と空間分布を明らかにしたことである(詳細は次段落以降で述べる)。成長したKH渦は、太陽風磁場が北向きのときの太陽風プラズマの磁気圏侵入に役割を演じていると考えられているので、その同定方法を確立し、その寄与を解き明かすことは、磁気圏におけるプラズマの(より普遍的には無衝突プラズマの)輸送過程を理解する上で重要である。また、KH渦の検出確率や空間分布は、KH不安定がどこで、いかに励起され、発達するかを解明する(KH不安定の励起・成長メカニズムに制約を与える)上で、重要な情報となる。 (1)電磁流体力学の運動方程式(力のつり合い)から、成長した渦を単一衛星が通過したときに期待される、プラズマ密度、速度、全圧(プラズマ圧と磁場圧の和)との間に満たされる関係式を導きだした。これをクラスター衛星の編隊観測によってKH渦が確実に同定された事例に適用し、関係式が実際に満たされることを確認した。したがって、一衛星のデータからKH渦を同定する新しい手法が確立されたと言える。 (2)ダブルスター衛星1号機(TC-1)によって取得された2004年から2007年までの観測データを解析し、KH渦の出現特性や性質を調査した。TC-1衛星の遠地点は地球半径の約12倍と近く、昼側の磁気圏境界層を中心に観測していることを利用して、昼側での傾向を調べた。その際、我々が以前開発した一点観測に適用できる渦の同定手法を使用した。その結果、KH渦は朝側よりも夕方側で、より頻繁に観測されることを明らかにした。
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