研究概要 |
平成21年度は,Site U1304コアの最上部更新統を精査した.同層準は,珪藻マットが卓越する層準の一つであり,亜極前線の動態と珪藻マット形成との関連を考察するのに適している.分析は,浮遊性有孔虫群集解析と有孔虫殻の安定同位体比測定を実施した.安定同位体比分析は,高知大学海洋コア総合研究センターでおこなった.海洋表層環境変動を有孔虫殻の酸素同位体比から検討するため,生息深度の異なるNeogloboquadrina pachyderma(Sinistral)とGlobigerina quinquelobaの2種を用いた.分析の結果,両種の同位体比の差は,約300Kaを境にして有意に変化した.すなわち,約300Ka以前の層準では同位体の差が小さく(最小で0.5‰),それ以降では差が大きい(最大で2.5‰)傾向にあった.北大西洋では,N.pachyderma(S)はG.quinquelobaよりも深い水深に生息し,海洋表層が低塩化傾向にあるグリーンランド近海では海洋表層を低塩分・低水温の水塊が覆うために,両種の生息深度がほぼ同じになることが知られている.したがって,両種の酸素同位体比は,それぞれの生息深度の差を反映し,より寒冷・低塩な環境では差が小さく,逆に温暖な表層水が分布する場合は,差が大きくなると予想される.これに基づき本研究の酸素同位体比変動を検討すると,Site U1304は,約300Kaを境に,寒冷で低塩な環境から海洋表層が比較温暖な環境へ変化したと考えられる.約310~350Kaに珪藻マットが著しく発達することを考慮すると,珪藻マットの形成は,寒冷・低温環境下で形成されたと推測される.このように浮遊性有孔虫の分析が,珪藻マットの形成.またそれに関連する亜極前線の動態評価に有用であることが示された.今後,これらの成果に基づいて第四紀を通した環境変動を検討する.
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