研究概要 |
応力逆解析法は,多数の断層の方位を元に,それらが活動した当時の地質体内部の応力状態を推定する手法であり,構造地質学や地震学の分野で広く普及している.応力逆解析法の原理であるWallace-Bott仮説(断層の滑り方向が剪断応力と平行であるとの仮説)を検証することが本研究の目的である.その手段として,断層活動を再現する数値実験を行い,また天然の断層系との比較を通して数値実験の妥当性を確かめる. 平成21年度は,数値実験のプログラムの開発・整備と,天然の断層系のデータ収集を行った.本研究の開始以前から開発を続けてきた3次元個別要素法プログラムに機能を加え,境界条件の応力値を制御しながら断層形成実験を進められるよう改良した.断層の抽出法については,歪行列の第二不変量に着目する方法を試みたが,判定に任意性が残り,今後の課題として残った. 天然のデータとして,房総半島に分布する上総層群や,紀伊半島沖の南海付加体の地震波反射像に見られる断層系の方位を取得した.従来のモデル通りの単純な共役断層系(2方向に集中)の他,4つ以上の集中方向を持つ断層系の存在も確認された. また,応力逆解析法に関する理論的側面の研究も進め,Wallace-Bott仮説を偏差応力空間で表現した際の幾何学的特徴に着目した新たな解析法を開発した.この手法により,従来よりも高速に最適解が得られることを確認し,日本地球惑星科学連合大会において公表した.
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