研究概要 |
本年度は日本周辺海域で産出する代表的な底生有孔虫殻の安定同位体組成を個別に分析し,生態情報や生息場の環境因子との相関を検討して古環境復元に有用な有孔虫種を選定した.特に前年度から分析しているオホーツク海表層試料の検討結果も踏まえ,微小領域の安定同位体定量の有用性を提言し,実際の堆積物試料へ応用方法を検討した. これまでの炭酸塩安定同位体比研究では,生物学的な要因による同位体値の非平衡(vital effect)により,分析データの解釈が困難である場合があった.一方,炭酸塩試料を大量分析した時には平均化されて見えなかった同位体組成の不均質性(=同位体組成分散)とvital effectの傾向を,本研究で用いている高精度・高感度の分析法を駆使することによって解明できると推測した. 今年度得られた各種底生有孔虫の安定同位体組成から,vital effectの単純化が可能であること,同時に,その特性を利用することで底層水化学組成の正確な推定が可能であることがわかってきた.これは,周辺水化学データの無い堆積物試料に対しても応用が可能で,過去~現在の海洋の正確な化学組成推定へとつながる. さらに今年度は,微量炭酸塩安定同位体分析を用いて,浮遊性有孔虫・魚類の耳石などを研究対象とした国内外の研究機関との新規共同研究も開始し,新たな環境指標を構築の基礎となる新知見を得ている.
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