研究概要 |
本研究の第1の目的は,(1)石灰質微化石の価値向上と有効利用を推進するために新たな環境指標の構築を目指し,(2)世界をリードする高解像度環境変動解析の実現への応用研究が第2の目的である.また,(3)この分析法に対する幅広い分野からの需要に応えるために,開発した分析システムの維持と改良を継続し,分野を問わずに新たな研究成果へとつながる共同研究体制を積極的に構築することを本研究の第3の目的とした. 昨年に引き続き,日本周辺海域で産出する代表的な底生有孔虫殻の安定同位体組成を個別分析し,生態情報や生息場の環境因子との相関を検討して古環境復元に有用な有孔虫種を選定を試みた.その結果,vital effectの全体像を捉えることにも成功し,その特性を利用して海洋の同位体組成を厳密に復元する手法の確立へと結びつきつつある(Ishimura et al.,submitted).また,微小領域の炭酸塩安定同位体組成分析法に対する幅広い分野からの需要に応えるために,開発した分析システムの維持と改良を継続し,分野を問わずに新たな研究成果へとつながる共同研究体制を維持した.新たな試みとして,これまで高精度高感度分析に用いられることが少なかったISOPRIME社製の質量分析計を用いた微量炭酸塩安定同位体分析法の確立を試みた.炭酸塩試料の外部精度はδ13C・δ18Oともに0.1~0.2%であり.1μgの炭酸塩(CO2で10nmolに相当)でも同位体比を測定できることがわかった.精度・感度・安定性に関しては調整を加えることによってさらなる向上が期待できる.これは,Ishimura et al(2008)で開発したMICAL2(北海道大学・Finnigan MAT252に接続)に続く,高感度の炭酸塩安定同位体組成定量システムとなる.また,同時に開発した海洋環境試料の炭素酸素安定同位体組成の総合分析システムを用いて生物源炭酸塩(微小領域~)と周辺水の直接比較も可能になった.これらの総合分析システムは東日本大震災によって研究の停滞を余儀なくされたが,半年かけて震災前の研究体制に復旧し今後の応用研究への基盤を再構築した.
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