研究概要 |
南半球では連続的な層序にもとづいた海生生物相の変遷(進化や絶滅,多様性変動など)はほとんど明らかになっておらず,地球環境変動との相互関係もよく理解されていない.そこで本研究では,白亜紀当時には南半球に位置していたインド南部をおもな研究対象地域として,海生軟体動物相の変遷史(進化や絶滅,多様性変動)を明らかにし,地球環境変動との関連を理解することを研究目的としている.本年度は,生物相の変遷史を明らかにするため,インド南部アリヤルール地域での野外調査成果および同時代の北海道から産出した海生軟体動物化石にもとついて研究を進め,頭足類(アンモナイト類,オウムガイ類)の生物相が時代とともにどのように変遷したのかを理解することを目指した.その結果,Wani et al (2011)およびWani(2011)では,オウムガイ類の孵化サイズ変遷史を古生代~中生代を通じて解析し,古生代から中生代にかけて孵化サイズが増大したことを明らかにした.この変遷史と古環境(とくに海水準変動)とを比較したところ,従来の生物学で想定されている繁殖戦略と多様性変動との関連性と相反するもので,同所的種分化が多様性変動に大きな役割を担っていた可能性を示唆した.また,北海道の同時代から産出した頭足類化石について,孵化サイズの種内変異,成長最初期の殻形態変化,殻形態と生息域との関連性について,新知見を得たので,それぞれ学術雑誌において発表した(Tajika and Wani, 2011 ; Arai and Wani, 2012 ; Ikedaand Wani, 2012). 上記の成果に加え,古生代後期のアメリカ南部の頭足類化石および現生オウムガイ類の触手の生理学的研究に関する共同研究においていくつかの新知見が認められたので,学術雑誌において発表した(Wani et al, 2012 ; von Byern et al., 2012).
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