研究概要 |
マントルウェッジにおいて,スラブ由来流体による島弧マントルの改変プロセスとそれに伴う遷移元素の移動プロセスの解明を目的として,2010年度は,火山前線下マントル物質であるアバチャ火山に加えて,おなじくカムチャツカ弧のシベルッチ火山に産するかんらん岩捕獲岩についても処理・解析をおこなった。また,オマーンオフィオライト底部のかんらん岩(蛇紋岩)についても,試料処理・機器分析をおこない,その結果について検討した。 アバチャ火山のかんらん岩捕獲岩中に観察されていた,鉄やニッケル,硫黄に富む粘土鉱物について,新たにLA-ICP-MS分析をおこなったところ,オスミウムや白金などの白金族元素や金が非常に濃集していることが分かった。一般に,白金族元素は低温での変質作用では流体やメルトによっては移動しないことが知られている。我々が発見した粘土鉱物は,初生的には珪酸塩メルトもしくは,シリカ成分に富んだ水を主成分とする流体であると考えられるが,その流体/メルトが白金族元素にかなり濃集していたことになる。この流体/メルトがどの様な条件下で発生し周囲のマントルかんらん岩と反応しているのかを解明することは,白金族元素を含む遷移金属元素の移動・濃集過程に直結する。 オマーンオフィオライト底部のかんらん岩には,地表へののし上げ時に下部変成岩から放出された水による改変が認められた(角閃石の形成や単斜輝石中の軽希土類元素の濃集など)。これについては,引き続き詳細な観察や機器分析をおこなう必要があるが,マントルウェッジの上部と下部両方の研究で得られた結果を統合して,全体の理解へ向けて検討を始めた。
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