研究概要 |
Acfer094隕石のマトリックスに存在するCOS (cosmic symplectite)と呼ばれる物質は、地球標準海水と比べたδ^<17,18>Oが+180‰に達する値を示し、きわめて異常な酸素同位体をもつ物質である。COSは惑星科学において長年議論されてきた非質量依存同位体分別効果の謎を解く鍵として大きな注目を集めているが、その基礎的な鉱物学的記載は不十分である。本研究課題は最先端の試料作製および微細組織観察装置を用いてこの物質の成因に制約を与え、太陽系形成時における物質の進化過程を明らかにする試みである。本年次ではすでに作成済みであったCOS試料の放射光X線回折実験と走査透過型電子顕微鏡観察を行った。放射光実験は高輝度光科学研究センターSPring-8のBL10XUで行った。一辺が約10μmのブロック状の試料を揺動させながら15μm程度にコリメートした単色X線(~0.4Å)を照射し、回折図形(デバイリングパターン)をイメージングプレートで2次元的に撮影した。COSを構成する結晶相の同定、格子定数の精密化を行ったところ、COSは酸化鉄や硫化鉄を含む複合相の集合体であることが分かった。微細組織観察については、試料を100nm程度に薄膜化したのち、九州大学超高圧電顕室敷設の300kVΩフィルタ走査透過型電子顕微鏡(STEM, JEOL JEM-3200FSK)を用いて、超高分解能像ならびに電子線回折図形を撮影した。特に結晶間の境界に注目して観察したところ、COSを構成する結晶相は互いに特別な方位関係で配置しており、原子配列が整合的につながっていることが分かった。これはCOS構成相が単に機械的に混合したのではなく、同時期に成長したことを示しており、COSの形成過程に大きな制限を与えると考えられる。
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