研究概要 |
始原的な隕石Acfer094のマトリックスに存在するCOS (cosmic symplectite)と呼ばれる物質は、地球標準海水と比べたδ^<17,18>Oが+180‰に及ぶきわめて異常な値を示すことから、惑星科学において長年議論されてきた非質量依存同位体分別効果の謎を解く鍵として大きな注目を集めている。本研究課題は最先端の試料作製手法および観察装置を駆使してこの物質の微細組織を明らかにし、さらに再現実験によってその生成条件に制約を与えることで、太陽系形成時における物質進化過程を明らかにする試みである。昨年時までの研究で、COSは数十nmスケールの酸化鉄(Fe_3O_4)や硫化鉄(FeS,[Fe,Ni]_9S_8)を含む複合相の集合体であり、さらにそれらの結晶相は互いに特別な方位関係で整合的に接していることが分かってきた。これはCOS構成相が単に機械的に混合したのではなく同時期に成長したことを示しており、液相からの急冷共晶組織である可能性が高い。そこで本年次ではこの微細組織を再現するため、縦型管状炉を用いて溶融急冷実験を行った。COSと同一の化学組成に調整した試薬混合物をAuカプセルに封入し、溶融急冷した生成物を電解放出型走査電子顕微鏡で観察したところ、酸化鉄および硫化鉄が100~300nm程度に成長した虫食い状組織を再現することができた。さらに顕微鏡付随の後方散乱電子線回折装置による結晶方位解析の結果、一見独立の結晶粒に見えるものが結晶学的に同一方向に配向していることが分かった。また、冷却速度が速いほど組織が細かくなる傾向が見られた。これらの実験結果は実際のCOS組織をよく再現している。すなわち、COSは太陽系形成初期に何らかの熱源で一旦全溶融したのち急冷してできた組織である可能性が高いことが分かった。
|