研究概要 |
CaSiO_3ペロヴスカイトはMgSiO_3ペロヴスカイト、マグネシオウスタイトに次ぐ下部マントル第三の主要構成鉱物と考えられており、その性質を詳しく理解することは重要であるが、下部マントルの温度圧力条件下における安定結晶構造や弾性特性はいまだ未解明である。CaSiO_3ペロヴスカイトは理想的立方晶ペロヴスカイト構造に近い結晶構造を持つことが知られていたが、近年、室温下ではわずかに正方構造に歪んでいることが高圧実験や理論計算両面から指摘された。この相は、SiO_6八面体の回転振動モードの励起により高温で立方構造へ転移すると考えられるが、過去の理論的研究では、十分に電子状態を収束させずに構造計算をおこなったり(Li et al., 2006)、長波長フォノンの寄与を無視して相転移温度を推定したりしたため(Stixrude et al., 2007)、その相転移境界は不明確であった。そこで平成21年度の研究において、80原子からなる大規模計算セルと密なk点サンプリングを用いて電子状態の収束性を注意深く確認したうえで、定温第一原理分子動力学シミュレーションを実行した結果、正方-立方相転移の温度圧力条件をより高精度で制約することに成功した。得られた相転移温度は圧力によらず約1000K程度であり、Li et al.(2006)に比べはるかに低温であることがわかった。これにより、下部マントルの全温度圧力領域(1800K~2500K、23GPa~136GPa)において立方構造が安定となることが判明した。
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