本研究は地球深部約410-660kmの深さに存在するマントル遷移層における主要構成鉱物であるカンラン石高圧相(β・γ相)における水素の存在状態とそれが与える分光学的特性を第一原理電子状態計算法を用いて調べることを目的としている。本研究ではまず、Tsuchiya et al.2009で報告した含水β相中の最安定構造と準安定構造での振動特性を第一原理格子動力学法を用いて調べた。その結果、含水β相の格子モード(水素の関係しない振動)の振動数は加圧に従って増加する一方、常圧におけるOHの伸縮振動は3250cm-1、3500cm-1付近でそれぞれ2つのピークが見られ、それらが高圧下で減少傾向にあることが示された。振動数の圧力依存性等も過去のRamanやIR測定結果と調和的であるが第一原理計算では振動数を過小評価(約4-9%程度)する傾向が見られた。また過去に報告された実験での高圧Raman/IR測定ではノイズが多く、OH伸縮振動ピークの形状が理論計算と一致しているか判断が難しい現状である。しかし、本研究ではこのTsuchiya et al.2009において第一原理電子状態計算によってもとめた水素安定位置が、実験で得られている主要なOH伸縮振動数を与えうると示されたことは重要な進展である。
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