研究概要 |
現在、そしてこれからの気候変動を予測する上で重要な、放射強制力に対する気候システムの応答を解明する鍵となる時代の一つである最終氷期最盛期(LGM)における熱帯海域の海水温、塩分の季節変動を解明することは重要であり、本研究では化石サンゴを用いてLGMの季節変動を明らかにすることを目的としている。試料は南太平洋のバヌアツから採取された化石サンゴであり、ウラン系列年代測定法により約22,000年前の年代を有することが分かっている。今年度は成長線に沿って、ミリングを行った保存の良い約7年間について海水温の良い指標とされているストロンチウム・カルシウム比(Sr/Ca)および海水温と塩分の指標とされている酸素同位体比(δ^<18>O)の測定を行った。データの時間分解能は約1ヶ月であった。測定の結果、Sr/Ca、δ^<18>Oともに明瞭な季節性が復元され、Sr/Ca比は9.35~9.05mmol/molの範囲で、またδ^<18>Oは-3.8~-2.6‰の範囲で変動していた。バヌアツ周辺の現生サンゴのSr/Ca比から得られた、Sr/Ca比-温度換算式を用いて化石サンゴの海水温の季節変動を計算してみると、~5℃の季節性となり、現在(<3℃)に比べ季節性が大きいことが明らかとなった。一方、年平均海水温の低下は4.5℃前後とモデルにより再現された先行研究の値とも整合的であったが、他のプロキシデータよりもやや低い値を示した。これは、LGMにおけるバヌアツ周辺海域においては、特に冬(7-9月)の海水温が低下していたため、季節性の拡大および年平均海水温の低下が見られたことが化石サンゴのSr/Ca比より示唆された。化石サンゴは他のプロキシデータと異なり、その年輪により季節性を詳細に復元することが可能であるため、今回このような冬期における海水温の低下を明らかにすることができた。今後δ^<18>Oの解析も進め、塩分についても同様に復元を行なう予定である。
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