研究概要 |
本研究は、始原的隕石に残存しているプレソーラー粒子の重元素の存在度・同位体組成を高精度分析し、物質の基本構成要素である元素の生成過程を解明することを目的とする。特に未だ不明な点も多い鉄以降の重元素合成過程(s^-,r^-,p^-プロセス)に着目する。2年目となる本年度は以下の研究を行なう予定であった。 (1)高精度Ru・Mo同位体測定法の開発。(2)隕石からプレソーラー粒子を含む耐酸性残渣相を抽出し、Os・Ru・Mo同位体比の測定。(3)得られた実測値を利用した元素合成や銀河の化学進化に関するモデリング。 まず(1)に関しては負イオンTIMS法を適用した。RuおよびMo標準物質の繰り返し測定を行ない、^<100>Ru/^<101>Ruで±0.5ε(2σ)、^<96>Mo/^<98>Moで±0.3ε(2σ)の再現性をそれぞれ達成し、目的にかなう分析法の立ち上げに成功した。しかし隕石から抽出した耐酸性残渣中のRuおよびMo濃度は著しく低く、TIMSで高精度測定を行なうために必要な量に満たなかった。隕石の総量に限りがあったため、以降の分析は比較的存在度が高く分析感度もよいOsを中心に行なった。 本研究を進める過程で、隕石母天体における熱変成や水質変性が隕石中のプレソーラー粒子存在度に大きく影響することが分かってきた。すなわち、元素合成のモデリングに入る前に、これら母天体プロセスの影響を解明する必要が生じてきた。特に水質変性の影響はほとんど研究されていなかった。そこで同一グループに属し、水質変性度の異なる隕石(CM2.0,CM2.1,CM2.5,CM2.6およびCR1,CR2)から耐酸性残渣を抽出し、Os同位体を高精度で測定した。その結果、水質変性はr^-プロセスで合成されたOsを保持する、ある種のプレソーラー粒子を選択的に破壊することが分かった。このことは隕石の持つプレソーラー粒子存在度や全岩同位体組成が必ずしも母天体形成領域のプレソーラー粒子存在度や同位体組成を反映するわけでないことを示唆している。この成果は国際誌EPSLに掲載された(Yokoyama et al. 2011)。今後、本研究における成果を元に元素合成や銀河の化学進化に関するモデリングに取り組む予定である。
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