申請者の研究グループでは、これまでに、インドネシア・ジャワ島西部において、鍾乳石(CIAW15a)の炭素・酸素同位体比と降水量の時系列データ(過去50年分)を比較し、両者には負の相関があることから、前者が後者の有効な指標となることをアジア熱帯域で初めて明らかにした。 そこで、平成21年度は、【1】西部・東部ジャワの鍾乳石においても同様の比較を行い、重ねて指標の信頼度を評価するとともに、【2】気象データのない、より古い時代に遡って鍾乳石の同位体比を測定し、過去の降水量と気候変動を正確に復元することを試みた。【1】の成果:西部・東部ジャワの鍾乳石(各々、1試料、4試料)について、成長縞の計数結果とウラン放射非平衡による絶対年代値を比較した結果、鍾乳石の成長縞は基本的に年縞であることが示された。これは先行研究の結果と調和的で、その再現性を確認できた点で重要である。また、西部ジャワの鍾乳石(CIAW15-2a)の炭素・酸素同位体比を時系列に沿って分析し、先行研究で用いた鍾乳石(CIAW15a)のデータと比較したところ、形成年代に応じて、再現的な部分とそうでない部分とに区分された。これは、ドリップウォーターの滴下する位置の変化に起因して、二酸化炭素脱ガスに伴う同位体分別の程度が異なったためと考えられる。2つの鍾乳石間の同位体比を比較することにより、再現的なデータを得るためには、鍾乳石の形状や成長軸を吟味していくことが極めて重要であることが示唆された。 【2】の成果:西部ジャワの鍾乳石(CIAW15a)について、過去500年間にわたり年々スケールで炭素・酸素同位体比を測定した。鍾乳石の同位体比時系列データには、短期的な降水量変動による影響のほか、数百年スケールの長周期変動があることが明らかになった。今後、スペクトル解析などを行うことにより、その周期や要因を検討していく必要がある。
|