研究概要 |
隕石中の「惑星型」希ガスのうち重い希ガスの大部分を占める"Qガス"は、隕石の酸処理で得られる化学残渣に含まれる炭素物質をその担体"Phase-Q"とすることが知られる。しかし、Phase-Qがどのような性質・構造を持つ炭素物質であるかについては殆ど明らかにされていない。Amari et al (2003)によると、炭素質コンドライトのAllende隕石を物理的に分離した炭素物質のうち、密度が約1.65g/cm3の画分(C1-8D)にQガスが2.5倍濃集する。本研究では、Qガスに富む炭素物質の化学結合状態を理解する目的で、C1-8DをX線吸収端近傍構造(XANES)分光法で分析し、他の密度の画分や化学残渣との比較を行った。測定はアメリカ合衆国ローレンス・バークレー国立研究所,Advanced Light Source,ビームライン5.3.2.で実施した。C1-8DのCarbon- (C-) XANESスペクトルでは、高度に共役したsp^2炭素のCls-σ^* excitonがなく、イオン化ポテンシャルを超えた292.6、295.7eVでC-C、C-O、あるいはC-F結合のCls-σ^*遷移を示す2つの主要なピークが検出された。このようなスペクトルパターンは酸不溶性残渣のC-XANESスペクトルとは明らかに異なった。またC1-8DのC-XANESスペクトルは、純粋なグラファイト、ダイアモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素、さらには他の密度の画分のC-XANESスペクトルとも相違点が見出された。以上より、Qガスの濃集は炭素物質の化学結合状態に関係があることが示唆された。今後、Qガスをさらに濃集させた炭素物質を分離し、そのXANES分析を行うことで、phase-Qの候補物質をさらに絞り込むことができる可能性が期待される。
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