研究課題
隕石中の「惑星型」希ガスのうち重い希ガスの大部分を占める"Qガス"は、隕石の酸処理で得られる化学残渣に含まれる炭素物質をその担体"Phase-Q"とすることが知られる。しかし、Phase-Qがどのような性質・構造を持つ炭素物質であるかについては殆ど明らかにされていない。Amari et al(2003)によると、炭素質コンドライトのAllende隕石を物理的に分離した炭素物質のうち、密度が約1.65g/cm3の画分(Cl-8D)にQガスが2.5倍濃集する。H21年度の研究では、Cl-8DをX線吸収端近傍構造(XANES)分光法で分析し、他の密度の画分や化学残渣との比較を行ったところ、Cl-8Dはsp^3炭素に富む物質であることが示唆された。H22年度の研究では、Qガスに富む物質(化学残渣,AMD1)と、Qガスに乏しい物質(AMD1をニクロム酸ナトリウムで酸化処理したもの,AMD2)のXANES分析を行い、それらのスペクトルを比較し、酸化前後でグラフェン構造が定量的に変化しなかったことから、グラフェンはPhase-Qと関係がないという絞りこみを行うことができた。今年度は、AMD1を二硫化炭素処理後に得られた懸濁物質(AMD3)のXANES分析を行った。AMD3はAMD1に比べて希ガス濃度が2-4倍高いことが判明しているので(Matsuda et al. 2010)、両者の構造的差異は、Qガスの濃縮と重要な関係を持つ可能性が期待されるからである。AMD1,AMD3のC-XANESスペクトルにおける両者間での唯一の差異は、AMD3で287.43eVのピークが際立っている点であった(それに伴い、芳香族炭素の比が若干低い)。一般に、287eVは脂肪族炭素C-HのX線吸収に相当する。ラマン分光分析でも、AMD3だけに脂肪族炭素のバンドが現われており(森下和彦、2010年修士論文)、調和的な結果といえる。しかし、Allende隕石(CV3コンドライト)は、Murchison隕石(CM2コンドライト)などに比べて脂肪族炭素に非常に乏しく、CM2コンドライトでも、AMD3ほどに際立ったピークは現われない(Cody et al. 2008)。このような理由から、287eVにX線吸収を持つ他のsp^3炭素が重なって寄与している可能性が考えられる。例えば、フッ化アモルファスカーボンに含まれるC=C*-F-Cは287eV付近に吸収があることが知られる(Ma et al. 1998)。以上の結果から、本研究から、前年度の研究にひき続き、sp^3炭素がQガスの放出あるいはPhaseQそのものに関与している可能性が一層高まった。
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分析化学
巻: 60 ページ: 895-909
Researches in Organic Geochemistry
巻: 27 ページ: 33-43