研究課題
固体金属に高強度・超短パルスレーザーを照射する場合、照射直後には、原子核は結晶構造を保ったまま、多数の電子がフェルミ面直上に励起された暖温高密度状態が過渡的に実現されていると予想される。本年度は、照射直後の数十フェムト秒間における状態変化(電子の光吸収と誘導放出、電子間衝突緩和、オージェ崩壊など)を追跡するための時間発展方程式を構築した。この方法は、固体をクラスターで模擬し、非制限ハートリー・フォック法によって分子軌道のエネルギー準位と波動関数を求めた上で、各準位問の遷移を、量子統計力学に基づく密度行列運動方程式によって記述するものである。さらに、得られた方程式をマルコフ近似のもとで簡単化し、電子占有数に関するレート方程式の形に帰着させることに成功した。この方程式は、計算機を用いて容易にシミュレーションが行える上、電子励起にともなって系全体のポテンシャル構造が変化し、エネルギー準位がシフトするといった多電子効果を考慮している点で、従来の理論を拡張したものとなっている。具体例として、固体リチウムにK-吸収端波長の真空紫外(VUV)レーザーを照射した場合のシミュレーションを実行した。その結果、電子励起とともに内殻エネルギーバンドが低下し、十フェムト秒程度の間に吸収端が高エネルギー側にずれ、吸収係数が急激に減少することを見出した。最近、高強度VUVレーザーを照射したスズにおいて、吸収飽和が起こり、透過率が非線形に増大する現象が実験的に確認されており、本研究結果で見出された吸収係数の超高速変化が、こうした飽和吸収を引き起こす一つの要因となっている可能性が示唆される。
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Chemical Physics Letters 475
ページ: 227-231
Optics Express 17
ページ: 23443-23448