生物のエネルギー生産を担う酸素発生光合成は、高等植物あるいはシアノバクテリアによって行われる。光合成反応は古くから研究されているが、いまだにその電子移動過程など明らかになっていないことが多い。そこで本研究では、シアノバクテリアから抽出・精製した光化学系を対象に、その電子移動過程の解明を目指した。昨年度に引き続き、ESR装置の高速化を図る一環として、データ処理系の改良を行った。昨年度までよりも倍速のサンプリング速度および倍の帯域を有するA/Dコンバータを導入し、その制御とデータの取り込みを可能とする自作のプログラムを作成した。その結果、lnsの速いESR応答信号を取り込むことが可能となった。昨年度から改良を重ねてきた超高時間分解ESR装置により、重水素化光化学反応中心の反応中間体ラジカルイオン対P_<700>^+-A_1^-に対して、100K付近でレーザー照射直後にESR信号の超高速量子ビートを、高いS/N比で観測することができた。また、化学還元処理によって電子移動経路を制御した超高時間分解高周波時間分解ESR測定も行い、電子移動の二方向性を実証することができた。また、二成分のESRスペクトルの時間依存性と信号強度比から、二経路の速度比などダイナミクスに関する情報を明らかにした。光化学系の電子移動経路については単方向性と双方向性の二つが提唱されてきたが、本研究から双方向性の電子移動が妥当であると結論付けられた。
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