本研究の目的は、エネルギー広がりの少ない、フェムト秒レーザーを励起源とするフォトカソード型超短パルス電子銃の開発である。具体的には10eV以下のエネルギー幅で、かつサブナノ秒オーダーの時間幅を有するパルス電子線源を実現する方法を提案することを目指す。フォトカソード型超短パルス電子銃に関しては先駆的開発例があり、それを本研究での開発ベースとするが、パルス幅のみでなくエネルギー広がりも同時に抑制した電子銃を開発し、超短パルス電子銃を様々な電子線非弾性散乱実験へとその適用範囲を飛躍的に拡張することを目指す。 本年度は、前年度に引き続き電子銃の設計・製作を行った。フォトカソードはサファイア基板に銀薄膜を蒸着したものを製作し、高電圧(~10kV/mm)に伴う放電を防止するため、カソードホルダーは丸い形状に設計した。また、カソードホルダーとアノード表面に電解研磨を施して表面粗さを極力低減した。さらに、カソードホルダーとアノードは長さの揃ったマシナブルセラミックスの棒で互いに接続することで、3mmの加速領域において平行な電場を生成するようにした。一方電子銃の製作と並行して、パルス幅を簡便に評価するための光学系および評価チャンバーの整備を行った。2010年10月に導入されたフェムト秒レーザー(波長800nm、パルス幅約120fs)からの光を266nmに波長変換した後、フォトカソードに照射してパルス電子線の発生に成功した。発生したパルス電子をチャンネル型電子増倍管で検出したところ、カソード電圧が約-300V程度でパルス幅10ns以下のパルス電子線を生成することを確認し、本電子銃を電子線非弾性散乱実験へ適用する見通しを立てるに至った。また、これに平行して、空間電荷効果を考慮したシミュレーションソフトを作成し、目標とする性能もつ電子パルスの生成条件の検討を開始した。
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