本研究の手法の最大の特色である中性子回折法は、本研究で用いるサリチリデンアニリン誘導体のような有機物の試料に多く含まれる水素原子からの非干渉性散乱によってバックグラウンドが増大し、大幅にデータのS/N比が下がってしまう。一方、水素原子の同位体である重水素原子は非干渉性散乱がほとんどなく、回折強度に寄与する弾性散乱能も高い。本年度では前年度に立てた合成スキームを元にサリチリデンアニリン誘導体の重水素化を試み、50%程度の重水素化に成功した。また、平行して単結晶X線回折計上での光照射で単結晶の光反応を均一的に進行させ、その反応率を向上させるための条件検討を行い、0.3mm程度の厚さを持つ単結晶を10~20%程度反応させることに成功した。さらに、軽水素体の粉末結晶を用いて粉末中性子回折実験を行った。使用した装置はJ-PARC茨城県材料構造解析装置iMATERIAで、粉末を撹拌しながら十分に光反応を進行させ、-100度に急冷し、バナジウムの試料ホルダーに詰めて5時間の測定を行った。構造解析は現在進行中である。また、J-PARC茨城県生命物質構造解析装置iBIXを用いた単結晶中性子回折測定を年度末に行う予定であったが、震災によりJ-PARC実験施設全体が大きく被災し、実験がキャンセルされた。
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