金属を内包したフラーレンはその特異な構造だけでなく新奇な電子的・物理的特性を有することで興味が持たれている。本研究ではこの金属内包フラーレンに化学修飾を行うことによって新しい機能をもたせ、単分子デバイスや光スイッチへ応用することを目的としている。金属内包フラーレンに新しい機能を発現させるには、内包する金属原子とケージに導入する置換基の組み合わせが非常に重要である。特に複数の置換基を導入することは、付加位置の制御によって新奇物性の発現に期待がもてる。代表的な金属内包フラーレンLa@C_<82>は、C_2軸上の中心からずれた場所にLa原子が位置し、La^<3+>C_<82>^<3->の電子構造を有する。このLa@C_<82>に二種類の置換基、ペンタメチルシクロペンタジエン(Cp*)とアダマンチリデンカルベン(Ad)が付加する場合の位置選択性を検討した。Cp*は電子供与基を有しているため、正電荷が高く分布している炭素に付加すると予想される。フラーレンケージ上の電荷密度の解析により、正電荷はLa原子から離れた炭素に分布していることがわかった。またフラーレンケージの局所的な歪み度合いを表すp-orbital axis vector(POAV)を求め、反応性が高い炭素を選択した。電荷密度とPOAVの両者から予測したCp*の付加位置は、X線構造解析の結果と見事に一致した。二段階目として、La@C_<82>Cp*にAdが付加する場合の付加位置を予測した。求電子試薬であるAdの特性から、Adは負電荷を帯びておりPOAVの大きい炭素に付加すると考えられる。この予測は、La@C_<82>AdCp*からCp*を脱離した誘導体のスペクトル解析によって支持された。以上より、フラーレンケージ上の電荷密度とPOAVは二付加体の反応位置を特定するのに有用な指標であることを明らかにした。これはナノ分子の機能発現を制御し、望みの機能を有する構造を設計する手法として重要な意義をもつ。
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