金属を内包したフラーレンはその特異な構造だけでなく新規な電子的・物理的特性を有することで興味が持たれている。中でも、La_2@C_<80>は炭素ケージの内部場が均一であるため2個のLa原子が三次元的に自由回転しているユニークな金属内包フラーレンである。このフラーレン内部での金属原子の回転を望み通りに制御できれば、機能性ナノ分子として単分子デバイスや光スイッチへの応用が期待できる。そこで、電子受容性の高いLa_2@C_<80>に電子供与性分子を導入し、電子状態と内部場の変化を解析した。電子供与性分子には亜鉛ポルフィリン(ZnP)を選択し、スペーサーを介してLa_2@C_<80>と連結させた。このLa_2@C_<80>-ZnPドナー・アクセプター連結型分子は、スペーサーが真っすぐ伸びた構造よりも、折れ曲がって両者が接近した構造の方がエネルギー的に安定であることがわかった。これは炭素ケージとZnとの最近接距離が2.65Åとグラファイトの層間距離よりも短く、両者に強いπ-π相互作用が働いているためと考えられる。La_2@C_<80>-ZnPの分子軌道図は、HOMOはドナー部位であるZnP上に、LUMOはアクセプター部位であるLa_2@C_<80>内のLa_2間に軌道が局在化していることを示した。このようなHOMO・LUMO上の軌道の局在化は、La_2@C_<80>-ZnPが光誘起電子移動によって(La_2@C_<80>)^<・->-(ZnP)^<・+>として電荷分離状態を発現する可能性を強く示唆している。以上より、金属内包フラーレンを用いたドナー・アクセプター型分子は光励起によって分子内電荷分離状態を形成することを理論的に予測した。この成果は、新規有機太陽電池材料への応用に非常に期待できる。
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