本年度は、励起光にNd:YAGレーザー、モニター光に波長633mのHe-Neレーザーを用いる高感度時間分解ファラデー回転測定装置の構築を行った。高感度化のためには、モニター光の揺らぎによるノイズ、励起レーザーのQスイッチによるノイズを取り除く必要があった。そのため、モニター光の縦偏光および横偏光の両方の成分を同時に検出し、その二つの差の成分のみを差動アンプにより増幅するシステムを開発した。このシステムにおいては、まず、直線偏光しているモニター光を波長板により円偏光(実際には楕円偏光)に変換する。この偏光がスピン偏極をもった試料を通過すると、それぞれの直線偏光の偏光面はファラデー回転効果により回転する。試料通過後のモニター光を、偏光ビームスプリッターにより二つの直線偏光成分に分割し検出器で同時に検出する。最後に差動アンプにより、二つの偏光成分の差のみを増幅する。この改良により、特にレーザーからのノイズは大幅に軽減された。また、標準試料測定から、このシステムでの測定においては、少なくとも、過渡吸収信号、試料の屈折率変化による信号、およびファラデー回転信号の三種類の信号が観測されることがわかった。このうち、ファラデー回転信号のみが外部磁場強度に依存する。今後、磁場依存性を詳細に検討し、有機材料において時間分解ファラデー回転測定を行っていく予定である。また、重原子を含む励起三重項状態分子の光反応性を調べるために溶液中でナノ秒過渡吸収測定を行い、光電流発生に重要である光誘起電子移動反応に対する重要な知見を得た。
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