本研究の目的は、有機分子の励起三重項状態を用いて有機材料中に大きな磁化を発現させることである。そのために、本年度は、磁化を観測するための時間分解ファラデー回転測定装置の改良を行った、また、低磁場での磁気共鳴測定を用い、励起三重項状態で生成する磁化の測定を試みた。 磁気共鳴法を用いると、磁化の検出感度が大幅に向上する。(ただし、この場合時間分解能が失われる。)研究代表者は、低磁場での磁気共鳴測定により、試料の励起三重項分子で生成した磁化を観測可能であると考えた。しかし、代表者の研究室では、低磁場(0.1T以下)での磁気共鳴測定を行うことが可能な測定装置を有していない。そこで、アメリカ ワシントン大学セントルイス校のLin教授、ドイツ フライブルグ大学のKothe教授との共同研究をアメリカワシントン大学セントルイス校で行った。低磁場での時間分解磁気共鳴測定装置の開発を行い、pentaceneの励起三重項状態で生成する磁化について研究した。励起光にはナノ秒の窒素レーザー、試料はp-terphenyl結晶に埋め込まれたpentaceneを用いた。検出には自作の共振器およびラジオ波増幅器を用いた。温度条件、磁場の条件(磁場の大きさおよび配向)、試料の重水素化の有無など、実験条件を様々に変えながら実験を行ったが、試料中で光によって発現する磁化を明瞭に観測することはできなかった。時間分解ファラデー回転測定装置においても、増幅器などの改良を行ったが、励起三重項状態で生成する磁化の観測には、至っていない。サンプル試料の選定(重原子効果の増強)、測定装置の改良等を行い、今後も研究を進めてゆく予定である。
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