研究概要 |
バルク中に存在する溶媒和電子のモデルとして,水クラスターアニオンが研究されてきた。過剰電子と水クラスターの結合は一般に非常に弱いため,分子に捉えられた通常の電子とは異なり,過剰電子はクラスター表面に大きく広がった表面状態となる。一方,バルク中では過剰電子は周囲を水分子に囲まれた溶媒和状態になる。すなわち,クラスターを大きくしたとき,ある大きさで表面状態から溶媒和状態へと遷移するはずである。ここで,どの程度の大きさでその遷移が起こるかが現在も議論となっている。本年はLC-DFT法を分子動力学(MD)計算へ組み込んだ第1原理計算に取り組んだ。この方法により,水クラスターと電子の相互作用を精密に計算しながら,同時にクラスターが熱により揺らぐ動的な効果を考慮することができる。水クラスターアニオン(n~10)に対する信頼性の高いシミュレーションを実行し,その構造および生成機構を理論的に解明することを目的としている。計算機の立ち上げとMD計算は一通り終了し,現在成果を論文にまとめている。また,実験家と共同研究を立ち上げ,ニトロメタン・水クラスターのアニオンに対する量子化学計算を実行した。このアニオンクラスターは,電子がニトロメタンの価電子軌道に入るvalenceタイプと水分子に捕まえられた過剰電子タイプが実験的に示唆されている。本研究では量子化学計算により,2種類のアニオンの構造や安定性を求めた。
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