本研究は、驚異の光エネルギー変換効率を実現している光合成細菌の電荷分離反応につき、効率の要因の一つとされる機能分子エネルギー準位相関の解明を目的に、電子供与体と電子受容体の酸化還元電位を分光電気化学計測法により実測することを目指すものである。 本年度は、まず昨年度に確立した計測技術をもとに、さまざまな酸素発生型光合成光化学系IIを用いて、二次電子受容体プラストキノンの酸化還元電位の測定を行った。具体的には、昨年度に計測に成功したシアノバクテリアThermosynechococcus eleongatusに加えて、高等植物ホウレンソウ、珪藻Cyanidium caldarium、緑藻Chlamydomonas reinahrdtiiの4種を実験対象とした。測定の結果、QAの電位は生物種によって異なり、それぞれ-140±2mV、-162±3mV、-104±4、-171±3mVと最大で67mV異なることが明らかとなった。こうした違いは、他の電子伝達機能分子の電位にも影響してくるものと考えられ、これまで報告されている速度論敵解析によるデータとつきつめると、水酸化を担うP680の電位も生物種によって異なる可能性があるといえる。次年度には、この結果を基に、さらにエネルジェティックスの議論を深める予定である。 また、光化学系IIの祖先とされる紅色光合成細菌の反応中心を用いて、各機能分子の電位計測も展開している。本年度は昨年度に確立した反応中心分画を引き続き行い、まず一次電子供与体P870の電位計測を行った。結果+490mVほどと既報とほぼ一致した数値を得ており、本研究の推進の足がかりをつかむことができたものといえる。これをもとに次年度は供与体・受容体間の電位の相対関係について明らかにすることを目指す。
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