色素増感太陽電池の高効率化のためには開放電圧の向上は必須である。現在までに最高変換効率を達成している色素はルテニウム錯体であるが、さらなる向上のためにさまざまな色素が開発されてきた。しかしほぼ全ての色素において開放電圧はルテニウム錯体を用いたものよりも低かった。その原因として電荷再結合が早い、すなわち電子寿命が短いことが分かっている。そこで本研究では色素の構造がどのように電子寿命に影響を与えるのかを明らかにし、また色素の設計指針を示すことを目的とした。系統的に構造を変化させた色素を用いて電子寿命を測定した結果、以下の3つの因子でほぼ全てを説明できることが分かった。1:ブロッキング効果、2:部分電荷密度、3:分散力。ブロッキング効果は分子の吸着密度と大きさによってきまり、電荷密度は酸素原子や錯体の中心金属などにある電荷の偏り、そして分散力は分極率によってきまる。以前分散力の効果が明確ではなかったが、この効果が他の効果よりも小さいためであり、1と2の効果が無視できる状態では3の効果が明確に現れた。よって色素の設計指針として1:吸着密度が高くなるような構造、2:部分電荷密度を持たない、または酸化チタン表面から遠いところに配置、3:分散力が及ばなくなるように色素の骨格に共役しない分子を結合すること、が得られた。また1の効果を大きくするために、分子サイズの大きいコバルト錯体レドックス対を用いる事が有効である事が分かった。
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