本研究により、世界で初めて極低温用の生物光学顕微鏡において0.9という高い開口数を実現した。これにより、液体ヘリウム温度下で300nm程度の高い空間分解能で生体試料を観測する手法を実現することができた。開発した顕微鏡では色収差も高い精度で補正され、時-空間-スペクトル分解測定への応用に最適である。開発した顕微鏡はほとんどの部分が自作であり、波長800nm、パルス幅約140fsのパルスレーザーからの光を励起光源としたレーザー走査型の2光子励起顕微鏡である。2光子励起顕微鏡であることから、高い光軸方向の分解能も達成されている。また、適宜励起レーザーを変更することで、1光子励起の共焦点顕微鏡とすることも可能である。サンプルは銅製のサンプルホルダ内で厚さ0.3mmの窓の中に封じ込まれて真空には露出しない。そのため、wetな生体試料も観察可能となっている。もちろん、開口数0.9は0.3mmの窓厚を補正した上での値である。サンプルホルダがコールドヘッドに接続されてサンプルが冷却されるが、銅メッシュを介した接続を採用してホルダとコールドヘッドを機械的に分離している。この機構により、従来の極低温顕微鏡で問題となっていたコールドヘッドの伸縮や振動によるサンプル位置の変化が、大幅に抑えられるようになった。現時点でも、数10分程度で±100nm程度サンプル位置が揺らぐ、という問題が残っており、今後改善していく必要がある。
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