研究概要 |
真核生物は、生命活動に必要なエネルギー(ATP)を酸素呼吸によって生産している。呼吸で取り込まれた酸素は、ミトコンドリア内膜に存在するシトクロム酸化酵素によって水にまで還元されるが、この反応と共役して、プロトンが膜の内側から外側ヘポンプされる。その結果生じる膜電位やプロトン濃度勾配がATP合成の駆動力となる。本研究の目的は、シトクロム酸化酵素のプロトンポンプ反応の分子メカニズムを解明するために、フロー法が使用可能な時間分解赤外分光装置を開発することである。 本年度の目標は、時間分解測定装置のべースとなる定常測定装置の開発であった。光源には高輝度のフェムト秒赤外レーザーを使用し、光学系に分光器(ダブルモノクロメーター)とシングルチャネルMCT検出器を組み合わせた。信号検出には24bit,1.5MHz samplingのAD変換器を使用し、1kHzで発生する赤外パルス1発1発に対してデータの取得を行った。本年度中に定常測定装置の開発を終え、装置のテストとしてシトクロムc水溶液やシトクロム酸化酵素水溶液の酸化還元赤外差スペクトルを測定した。その結果、フローセルが使用可能な測定条件で(光路長50μm、蛋白濃度0.5mM)、プロトン放出を担うアミノ酸残基(Asp/Glu)1個に由来する信号(COOHのCO伸縮振動)の高感度検出に成功した。しかし測定の効率化のためには、検出器のマルチチャンネル化が必須と判断された。平成22年度には、マルチチャンネルMCT検出器の導入とフローセルの開発を行い、シトクロム酸化酵素に応用する。
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