研究概要 |
本研究の目的は、室温水溶液中の蛋白質反応を高精度で追跡できる時間分解赤外分光装置を開発することである。昨年度は定常測定装置を完成させ、シトクロムc酸化酵素(CcO)の酸化還元差スペクトルを室温水溶液中で測定することに成功した。その結果を踏まえ、本年度は時間分解測定に向けた装置の改良を行なった。具体的には、検出器のマルチチャンネル化と回転セルを使用した光学系の構築を行なった。ナノ秒可視パルスレーザー(532nm,25ns)を反応のトリガー光(pump光)として導入し、これとフェムト秒赤外パルスレーザーとを同期させて、時間分解測定を実現した。時間分解能は<50ナノ秒であった。赤外吸収信号の検出は、1kHzの赤外パルス光1発1発に対して行なった。ただし、光チョッパーを用いて可視パルス光を0.5kHzでチョッピングし、赤外吸収信号にpump on/offの変調を0.5kHzでかけた。pump on/offの差スペクトルから蛋白構造の変化を検出した。装置の応用として、CO結合型CcOのCO光解離後の構造変化を観測した。その結果、水チャネルの開閉を担うHelix Xの主鎖構造が、CUBでのCOの脱着と同期して、<50nsと2μsの時定数で変化することが示唆された。スペクトルのS/N比は>10000/1であった。室温水溶液中の蛋白質の光サイクル反応をナノ秒の時間分解能で高精度測定できる装置が完成した。
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