研究概要 |
局所密度近似や一般化勾配近似に基づく密度汎関数理論(DFT)は弱い相互作用の記述に問題がある。それは長距離電子間相互作用である分散力を記述できないからである。経験的な分散力補正がよく行われるが、新しい系への適用は困難である。このような背景を踏まえ、本研究では、電子密度応答関数に対する局所近似(Local Response)に基づいて分散力(Dispersion)を非経験的に算出するLRD法を提案し[1]、弱い相互作用を高精度かつ効率的に記述できる新しい計算手法を開発した。LRD法は分子中の原子間分散力係数を基底状態電子密度の汎関数として与える。理論の中核を担うのは分子中の有効原子分極率であり、これは標準的な数値積分法によって容易に計算できる。原子半径や原子分極率などの経験的物理量を一切用いずに、任意の構造について系の電子状態を考慮に入れた分散力の計算が可能である。さらに、多中心相互作用への拡張[2]や自己無撞着的解法の実装を行い、複雑な分子集合体の高精度量子化学計算を可能にした。これにより、自己集合現象や生体分子の機能構造形成など、分散力が主要な役割を果たすメソスケールの現象の解明に貢献できると考えている。今後この方法を第一原理分子動力学計算に拡張し、生体分子のテラヘルツスペクトルのシミュレーション等に応用していきたい。 [1]T.Sato and H.Nakai, J.Chem.Phys.131, 224104 (2009) [2]T.Sato and H.Nakai, J.Chem.Phys.133, 194101 (2010).
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