本研究の目的は金属表面上に比率の異なる共吸着層を作成して、その電子状態の変化を調べることにある。表面上の共吸着層は触媒反応や電極反応のモデル系であり、比率の異なる共吸着層の電子状態を調べることがこれまで求められてきた。本研究では、ナノ秒パルスレーザーを用いて、表面上に比率の異なる共吸着層を連続的に作成して、その表面を位置分解型電子分光器で一度に測定することにより、様々な比率の共吸着表面のX線吸収分光法と共鳴X線光電子分光法を同時観測する手法を開発する。X線吸収分光法は異なる位置のオージェ電子の量を、励起工ネルギーを変化させながら測定することにより得られる。21年度は共吸着層を作成するためにナノ秒のYAGレーザーを導入して、またレーザー光を試料表面に適切な集光で導くためのシステムの構築を行った。実験装置は分子研の極端紫外光研究施設(UVSOR-II)の軟X線アンジュレータビームラインBL6Uに接続した。そして放射光から得られる軟X線を用いて、位置分解型電子分光器(SCIENTA SES200+MBS A-1)のエネルギー分解能と位置分解能のテストを行い、本研究を遂行する上で十分な性能を発揮することを確認した。上述のように、21年度で異なる比率の共吸着層の電子状態を同時に観測するためのシステムの構築がほぼ完了した。現在、このシステムを用いて、Ni(111)表面上のベンゼンと一酸化炭素の共吸着層の測定準備を進めている。この系はベンゼンと一酸化炭素の間の相互作用の変化により異なる混合比率で構造変化をすることが知られているため、異なる比率の共吸着層の電子状態を調べることが重要である。
|