本研究の目的は金属表面上に存在比率の異なる共吸着層を作成して、その電子状態の変化を調べることにある。表面上の共吸着層は触媒反応や電極反応のモデル系であり、比率の異なる共吸着層の電子状態を明らかにすることが重要である。本研究では、ナノ秒パルスレーザーを用いて、表面上に比率の異なる共吸着層を連続的に作成して、その表面を位置分解型電子分光器で一度に測定することにより、様々な比率の共吸着表面のX線吸収分光法と共鳴オージェ電子分光法を同時観測することを目的とする。この方法は過去にレーザー脱離法と位置分解型電子分光器を合わせることにより、Pt(111)表面上のOHと水の間のプロトン移動の速度を明らかにした手法を更に発展させた方法である。平成22年度は昨年度に引き続き、ナノ秒のYAGレーザーを超高真空槽の中の単結晶表面に適切な集光で導くためのシステムの調整を行った。また超高真空槽を分子研の極端紫外光研究施設(UVSOR-II)の軟X線アンジュレータビームラインBL6Uに接続して、Ni(111)表面上に一層吸着させたベンゼンのX線光電子分光の測定を行った。また超高真空槽に設置されている位置分解型電子分光器(SCIENTA SES200 + MBS A-1)のソフトウェアにTCP/IP通信により外部から制御することが可能なプログラムを自作して加えることにより、ビームライン側で軟X線のエネルギーを変えながら、電子分光スペクトルを自動測定することを可能にした。これによりオージェ電子収量の軟X線吸収分光法を共吸着表面で測定することが可能になり、Ni(111)表面上のベンゼンと一酸化窒素の共吸着層の軟X線吸収分光法と共鳴オージェ電子分光法を行うことを可能にした。
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